「アノニマス・ライフ 名を明かさない生命」展をみてきました。

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《アエウム》 2009-12年 渡辺豪

東京オペラシティ内にあるNTTインターコミュニケーション・センターで現在開催されている「アノニマス・ライフ 名を明かさない生命」展を観てきました。
内容は以下。

匿名の,名前のわからない,個性のないもの.アノニマス(anonymous)とは,そのような意味を持っています.ギリシア語の接頭辞an-(~なしの)にonyma(名前)が組み合わされて,「名前がない」を意味しますが,展覧会の作品はそれぞれに題名がつけられていて,名前がないわけではありません.では,「名前がない」とは一体どういうことを意味するのでしょうか.
 例えば,ロボット工学の一部では,テクノロジーの発達に後押しされ,「機械の生命」を作り出そうとしています.しかし,その成果物の多くは,私たちがSFなどに夢見る理想的なアンドロイドからすれば完全なものとは言えず,それはアンドロイドと呼ばれるひとつ手前の存在,名づけえぬ何ものかなのです.また,遺伝子操作に代表されるバイオ・テクノロジーやクローン技術などの生殖医療技術の急速な発達は,私たちがその本質を理解するよりも早く,名づけることのできない,もうひとつの「生」のあり方を現実のものとしてきました.
 この展覧会では,そのような名づけることのできない生命,本当の名を明かしていないものたち,「アノニマス・ライフ」ということばを手がかりに,機械と人間を分かつ自明であったはずの「生」の意味を問い直すとともに,テクノロジーの進歩が新たな光を当てたセクシュアリティやアイデンティティの問題をはじめ,私たちの社会の中に遍在する多様なゆらぎ,境界,そしてその侵犯をめぐる作品を紹介します.

アノニマス・ライフ ― 名を明かさない生命

どの作品も非常に興味深く楽しめたのですが、展示会のタイトルやテーマと、実際に展示されている作品にズレがあったかな? と。
この展示会における「アノニマス」の定義は、「まだ名まえの無いもの。名づけようの無いもの」ということなんだと思いますが、スプツニ子!さんの「生理マシーン」や高嶺格さんの「Ask for a Trade」なんかは、ジェンダーやアイデンティティの不確かさに問いかけを行うような作品だったと思います。
名づけようのない生命ということでは、展示されていた”キメラ”を描いた中世の版画(たしかプリニウス 『博物誌』)などの方がテーマに即していたように思えました。

■リプリーQ2

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本当は「米朝アンドロイド」を観たかったのですが、展示期間が過ぎてました orz
そのかわりに展示されていたのがアクトロイドの「リプリーQ2」
実際に見るのは初めてだったのですが、やはり直接見ると「不気味の谷」を意識せざるおえません。
造形の精密さより、たぶん動作に意志を感じられないところがどうにも違和感を抱くのだと思います。
もしそうだとすると、この違和感をなくすには自律しないとならないってことなので……不気味の谷を越えるのはまだまだ遠そうです。
パフォーマンス作品「模像と鏡像 – 美容師篇」については動画が放映されてましたが、これはやっぱりライブで見ないといけない作品でしょうね。

■エミー・マランスと12組の足

『義肢はもはや失ったものを補うのではない 新たに生まれた空間に 装着者が自由な創作を実現する 力の象徴』

元パラリンピックの選手でもあり、女優・モデルでもあるエミー・マランスさんのTEDでのプレゼンが展示会内で放映されてました。
個人的に一番興味深かったです。
義足は、足りない器官を補うための代替物ではなく、人間の能力を拡張する道具なのだなぁ~と納得。
攻殻機動隊で描かれたようにパラリンピックの選手が、オリンピックの選手の記録を抜くなんてこともそう遠くない話なのかもしれないですね。

■総論
作品自体は楽しめました。
ただ、「名づけようのない生命」とまで含めてしまったのは、展示会の規模にたいして風呂敷広げすぎたのかも。
むしろそのテーマなら、以前紹介した自己複製するライフゲームやモンサント社が作ってる遺伝子組み換え植物(下記動画参照)なんかの方が「なんかモヤモヤして、名づけようのない生命(?)」って感じがします。あと、今後かならず生命倫理的に問題になってくるであろうiPS細胞周辺の技術とか。前述した展示会の序文の中に書かれていた『遺伝子操作に代表されるバイオ・テクノロジーやクローン技術などの生殖医療技術』に関する展示品があったらよかったなーと。

全体通して「機械と人間の境界があいまいになっていくこと」への問い、みたいな事がコンセプトだったのでしょうけど、結局そんな問いなんてどこ吹く風といった感じに、身体と機械の融合を新たな可能性として人生を謳歌するエミー・マランスさんの動画が一番印象に残るという不思議な後味を感じた展示会でした。